モーションセンシングと可視化
運動計測ユニットを用いたリハビリ・スポーツ支援
リハビリやスポーツなどの分野では,人間の身体運動を計測・可視化することで,動きの直感的な理解を手助けするモーションキャプチャシステムが利用され始めている. しかし現在主流のシステムでは,身体に装着したマーカを複数のカメラで撮影することで身体運動を計測しているため,カメラの視野外での計測、つまり広範囲での計測が困難であった.これに対して我々は、平成23年度末まで福岡県ロボット産業振興会議の支援のもと,主に(株)ロジカルプロダクト,九州大学病院,福岡工業大学と共にカメラを使わず,身体の各部位にセンサを装着することで身体運動を計測できるシステムを実現してきた.具体的には,小型9軸ワイヤレスモーションセンサを用いて計測した加速度・角速度・方位といった動きの情報や,筋電センサなどで計測した生体情報を無線で伝送できるセンサユニットを使用.このプロジェクトにおいて当研究所(ISIT)は,各センサの情報から得られる身体内外の運動情報を統合し、VRやAR技術を用いて可視化する部分を担当した.
現在は、これをもとに身体運動と生体信号の同時計測・可視化によるリハビリ・スポーツ支援システムの実現を目指した研究に取り組んでおり,その成果はNICOGRAPH International 2013にてBest Poster Aword(最優秀ポスター賞)を受賞した.また、学会での発表だけでなくロボナブルやTech-On!などで紹介された.
超音波診断と可視化
在宅における遠隔超音波診断のための3次元空間共有ARシステム
近年の超音波診断装置のポータブル化や高齢化社会の進行による患者の増大により,在宅での超音波診断を行う環境が整備されてきた.しかし,在宅環境で診断に適した断層像を取得するためには患者の傍でプローブを操作する人への指示が必要である.そこで本研究では, 初回の診断時に医師が操作したプローブの位置・角度や臓器の形状など、診断に必要な情報を記録し, 在宅での検査時にはこれらの情報をCGを用いて再現するシステムを開発した.さらに,再現された情報と共に診断風景画像と断層像を病院に伝送し, これを見ながら医師が行った撮像指示を患者側の操作者にCGとして呈示する遠隔超音波診断システムを開発した. これにより,診断における3次元情報を医師と操作者が共有し,直観的かつリアルタイムに医師の所望の断層像を取得できる事が確認できた.
エコー画像を用いた臓器の3次元形状再構成とAR/VRによる可視化
超音波診断法は,医師が超音波プローブを手に持ち,患者の体表に押し当てるだけで生体内部の断層像や血流の情報が得られる診断法で,その利便性と非侵襲性によって幅広く用いられている.しかし診断には生体内の臓器の位置や形状と撮像断面の位置関係を把握しながら断層像の取得を行うため定量性に欠け,撮像手技の習得に熟練を要する. そこで本研究では非熟練者に対して,臓器や撮像断面の3次元形状や位置情報を可視化したCGをAR(拡張現実感)技術とVR(仮想現実感)技術でディスプレイ上に呈示することで, 診断に適した医用超音波画像の取得補助が可能なインターフェースを開発した.これにより臓器や撮像断面の相対関係を直感的に捉えられ,診断支援となることが示された.
化学と可視化
計算化学のための等値面可視化ソフトウェアの開発
近年のコンピュータの発展はめざましく,これまで多くの時間を要するとされていた科学技術計算も僅かな時間での実行が可能となった. しかし,計算から得られるのは膨大な量の数値データであり,それらを見ただけでは計算結果の把握が困難である. そのため, グラフの作成などによる数値データの可視化を必要とする.とりわけ,等値面として表現され得る三次元のデータでは, コンピュータによる可視化がその計算結果の理解に非常に有効である. そこで本研究では、一般的な量子化学計算結果の記録に用いられるCUBEファイルの読み込みによる分子構造や等値面の可視化を実現する ソフトウェアを開発した。また、CSV形式で保存されたボリュームデータからの等値面の作成も可能にし, 分子軌道以外の様々なシミュレーション結果を可視化可能にした。 さらに、可視化した等値面をJPEG等の画像や,VRML形式の3Dモデルとして 保存できる機能も実装した。
平衡状態図(相図)の利用支援ソフトウェアの開発
平衡状態図は、セラミックスや合金の中で温度や組成に依存してどのような相が現れるかを表現する図面であり、実用材料の利用・開発を行う上で有益な知識を得られる。しかし、この利用には平衡状態図の理解はもとより、作図計算を用いた読み取りを必要とするため、労力を要する。本研究 では平衡状態図をPC 画面上で容易に扱えるようにするソフトウェアを作成した。開発言語には、OSや機器に依存しないソフトウェア作成が可能なJavaを使用し、2成分系と3成分系の平衡状態図をマウス操作等の簡便な操作で取り扱うことが可能にした。特に、紙面上では等温線表示でしか取り扱えなかった3成分系の図については、ドロネー3角形分割を用いることで曲面化し、立体表示を可能にした.